今年の漢字と「北」枕

年末恒例、日本漢字能力検定協会主催の「今年の漢字」は、「北」が選ばれたそうです。「北朝鮮」や「九州北部豪雨」「北海道産じゃがいもの不作」「北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手」「競馬キタサンブラックの活躍」などが理由だそうですが、例年に比べると、どうもしっくりしないように感じるのは私だけでしょうか。

さて、今回の選考理由はともあれ、「北」という漢字には、「南」や「東」と比べると、どうもネガティブなイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。「北」という漢字は、「人」が背中を向けて立っている様子をかたどった漢字だそうで、「にげる」という読み方もあり、「敗北」という言葉に使われたりします。古代中国の風水思想によると、「北」とは、「冬」や「黒」を意味するそうで、そんな影響もあるのかもしれません。また、「北枕は縁起が良くない」と言われるように、「死」を連想させることも一因なのかもしれません。

これは遺体を北枕で安置する慣習の影響ですが、もともとは、お釈迦様がインドのクシナガラでお亡くなりになる際、「頭北面西右脇臥」(頭を北側に、顔を西に向け、右脇を下にして伏せた状態)だったことから、信者たちは死者を北枕にして弔うようになったことが由来だそうです。お釈迦様が北枕にして横たわったのは、生まれ故郷が北の方角にあったからだそうで、自分を生み育ててくれた両親やご先祖に足を向けられなかったのでしょう。また、顔を向けていた「西」とは、日の沈むところ、西方極楽浄土の方角です。

このように、本来「北枕」とは縁起の悪いものではないはずですが、「死」をタブー視する日本の風習のなかで、次第に形だけが残り「北枕」は死者(だけ)の寝方という考え方が浸透していったと思われます。

最近では、「北枕」は地磁気にそった寝方で健康よいとか、「右脇臥」は心臓に負担がかからないとか、いろいろな研究も発表されています。お家の都合で、北枕で寝ざるを得ないことも、また、遺体を北枕にできないこともあるでしょうが、それにこだわる必要はありません。大切なのは、私たちに命をつないでくださった先達への感謝と弔いの心。本来の意味に立ち返り、形や迷信にとらわれない暮らし心掛けたいものです。

 

今年も残すところあとわずかとなりました。本年も皆さまのおかげで、毎日を平穏無事に過ごすことができました。この場をかりてお礼申し上げます。どうぞよいお年をお迎えください。

(副住職)