寺院経営とはじめての決算

寺院をとりまく環境が激変しつつある現代。宗教としての本質を守り続けることは重要ですが、今の社会にあわせた「寺院のあり方」や「寺院経営」にも向き合うことが必要な気がします。そのためにも、タブー視されたり、意図的に避けられてきたお寺の内情や実態を開示・共有することは欠かせません。

決算書もまたその一つ。

先日、ようやく念願の決算(試案)ができました。毎年の夏の課題として、勉強を重ねて、あしかけ3年ほどかかりました・・・。

お恥ずかしながら、当院では昔から決算書は作成していませんでした。ご存知かもしれませんが、お寺は宗教活動だけを行っている限り、基本的に税務申告は不要なので、手間をかけて決算書を作る必要がなかったのです。また、当院のような小さな寺院は、法人格はあっても、実際は、職住一体の個人事業主みたいなものなので、お寺と個人のお財布がぐちゃぐちゃだったりします。

しかし、職業がら多くの企業の決算書を見てきた経験から、日々の記帳も決算も納税のためだけではなく、事業や経営の状態を見える化し、評価・改善していくために有効な手段だと実感しています。お金を用いて計算・評価はしますが、改善するのは、あくまで事業の中身。

だとすれば、お寺だって、決算書はあった方がいいはず。どのような宗教活動の結果、どれくらいの収入があって、どんな経費がかかっているか。過去と比べてどうなのか。将来のためにどうすればよいのか。客観的な数字をもとに考えないと、なんとなくわかるようで、わからなことばかり。いずれ訪れるであろう事業承継のためにも、欠かせません。

そこで、3年前から少しずつ宗教法人会計の勉強しながら、当院のような小さなお寺に適した会計制度・システムの調査・検討を重ねてきました。中小企業診断士として企業会計はある程度理解できていても、宗教法人会計は全くわからないので、一年目は勉強だけ。お布施など課税の対象にならない収入が多く、また勘定科目も独特。現金主義と発生主義の折衷のような「収支計算書」を作成するんだそうです。

二年目、エクセルで振替伝票を作成し記帳を始めたようとしたところ、仕訳はわからないし、決算前に伝票から転記して総勘定元帳を作成する作業が膨大過ぎて断念。そこで、会計ソフトを探し始めたものの、宗教法人会計対応のソフトはほとんど見つからない。数個はあったもののいずれも高価で、当院のようなわずかな少額の決算のために購入はできません。悩んだあげく、最終的には、勘定科目を自由に設定できる企業会計用ソフトを使用することにしました。2・3の無料ソフトを試行錯誤した後、たどり着いたのはこのソフト。

シーガルソフト「経理システム」
https://www.vector.co.jp/soft/winnt/business/se314580.html

このソフトは無料のうえ、初期設定の自由度が高いので、宗教法人会計に必要な勘定科目を追加設定して利用しています。しかし、あくまでこれは企業会計用ソフトなので、そのままでは宗教法人会計の決算はできません。そこで、決算前残高試算表をエクセルに書き出した後、手作業で決算整理仕訳を行い、宗教法人会計の決算書(案)を作成しました。まだまだ試行錯誤中で不完全なものですが、いろいろな気づきがあり、次の目標も見えてきました。

2年、3年、10年と続けていくことで「寺院のあり方」に新たな視座を与えてくれることを期待しています。

(副住職)