毎年8月上旬に開催される「京都・五条坂の陶器まつり」は、400店を越える屋台が五条通沿いに立ち並び、連日大勢の来場者でにぎわう京都の夏の風物詩です。我が家から徒歩15分くらいの場所なので、日が傾いた夕方、ずいぶんと久しぶりに行ってみることにしました。
五条坂周辺は、言わずと知れた、清水焼発祥の地。その起源は定かではないようですが、安土桃山時代に入ると茶の湯の隆盛もあって陶器の生産が盛んになり、江戸時代には清水坂はもとより八坂や粟田口まで東山一体に多くの窯元が軒を連ねていたようです。
一方、五条坂の「陶器まつり」はというと、意外と歴史は浅く、大正9年に、五条坂近くにある「六道珍皇寺」の「六道まいり(8月7日~10日)」にあわせて開催されたのが由来だそうです。「六道まいり」とは、「精霊迎え」とも呼ばれ、お盆に精霊があの世からこの世に来るにあたり、6つの道に迷わないようお参りする行事のこと。平安時代、この周辺は埋葬の地・鳥辺山にあたり、まさにあの世とこの世の境だったことに由来しています。ちなみに、これらの精霊は、8月16日、五山の送り火によって、あの世に帰っていくとされています。
ところで、この「六道」とはどんなものでしょうか。
仏教では、「天道」「人間道」「修羅道」「畜生道」「餓鬼道」「地獄道」の6つの世界があり、仏教と出会って悟りを開かない限り、この6つの世界で輪廻を繰り返し、永遠にさまよい続けるとされています。
・天道・・・・人間より優れた天人が住む。長寿で苦しみも少ないが、煩悩からは解き放たれていない。
・人間道・・・四苦八苦に悩む人間が住む。苦しみも大きいが、喜びもある。
・修羅道・・・阿修羅が住む。闘いが絶えず苦しむ。
・畜生道・・・神や人間以外の動物が住む。本能のみで生きる苦しみ。
・餓鬼道・・・強欲で嫉妬深く餓鬼が住む。飢えと渇きが絶えず苦しむ。
・地獄道・・・罪を犯したものが、償う世界。八大地獄で苦しみ続ける。
しかし、我が身を振り返ってみれば、これはあの世だけのことではないような気がします。まるで阿修羅のように怒ったり、畜生や餓鬼のように欲望を貪ったり、罪の意識に苛まれて悩んだり。「六道」は私達の心の中にあって、毎日果てしない輪廻を繰り返しているのではないでしょうか。
日も暮れて、陶器まつりも終盤に差し掛かった頃、食器を売る屋台の隣りで、陶器製のかわいらしいお地蔵さんを見つけました。お地蔵さん(地蔵菩薩)とは、六道を巡り、衆生の身代わりとなって人々を救う仏さま。六道まいりの帰り道で、お客さんを見守るそのお地蔵さんは、どこまでも優しいお顔でした。
(副住職)