ヒガンバナは花を咲かせる必要のないクローン植物

春から細々と続けている週末の鴨川ランニング。お彼岸の土手で、彼岸花を見つけました。

お彼岸が近づくと、墓地や土手に突如現れる真っ赤な花。けばけばしくて妖艶な姿は、日本の風景に似つかわしくない気がしますが、実は、室町時代から、日本人の生活に切っても切り離せない花だったようです。

ちょっと調べてみました。

彼岸花は、稲作と共に中国から伝来し、有用植物として日本各地に広まっていったと考えられています。球根でしか増えないので、どこに咲く彼岸花も人の手によって植えられたものです。

彼岸花にはアルカロイドという毒があるため、モグラなど土中動物による巣穴の被害を避けるため、土手や畔道などに植えられたようです。墓地にたくさん見られるのも、まだ土葬だった時代、お墓を動物に荒らされないための知恵だったのでしょう。

また、たびたび起こった飢饉では、彼岸花を食した記録もあります。球根を長時間、水に晒すと、片栗粉のような良質のデンプンが取れます。毒があるため普段は誰も食べないので、飢饉の時、身近にたくさん残っているという訳です。毒は使い方ひとつで薬にもなります。古来より、生薬としても使われてきました。

「死人花」「地獄花」「葉見ず」・・・。数百以上あると言われている彼岸花の別名の多くは、たった一週間で芽が出て花が咲く不思議な生態、妖艶でけばけばしい花姿、そして墓地でよく見かけることなどから、不吉な花のイメージが付きまとっています。しかし、実は、仏教では「曼珠沙華」と呼び、天上に咲く4つの花の一つ。「見る者の心をやさしくし、罪深き人を救う花」と言われています。

彼岸花は、生物学的には「三倍体」と呼ばれる部類に属し、種子を作りません。球根の分裂によって、自分と全く同じ性質をもったクローンをつくり繁殖します。その意味では、繁殖のために、花を咲かせる必要はありません。

では、なぜ、あのひときわ存在感の強い真っ赤なお花を、決まってお彼岸の時期に、咲かせるのでしょうか。その意味を考えるとき、改めて、彼岸花の不思議な魅力に惹きつけられてしまうのです。